クロージャ — スコープチェーンとデータの隠蔽
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クロージャ(closure)は、JavaScriptの概念の中で「名前だけは聞くけど説明できない」の代表格です。面接の定番質問でもあり、なんだか難しそうな響きがあります。
でも実は、あなたがイベントハンドラやコールバックを書いた時点で、クロージャはもう使っています。この章では「クロージャとは何か」を一言で言えるようになり、実務のどこで働いているか・どこでハマるかまでを整理します。
学習者「クロージャを説明してください」って面接で聞かれたら固まる自信がある…。関数の中の関数…?くらいのイメージしかないです。
先に一言で答えを出しておきます。クロージャとは、関数が「自分が定義された場所の変数」を、実行される場所やタイミングに関係なく参照し続ける仕組みのことです。これから順番に分解していきましょう。
クロージャとは — 関数が「生まれた場所」を覚えている
まずは最小のコード例から見ます。
function createCounter() {
let count = 0; // createCounterのローカル変数
return function () {
count += 1; // 外側の変数を参照している
return count;
};
}
const counter = createCounter(); // 実行はここで終わっているのに…
counter(); // 1
counter(); // 2
counter(); // 3 ← countが生き続けている!注目してほしいのは、createCounter() の実行は1行目ですでに終わっていることです。通常の感覚では、関数の実行が終わればローカル変数 count は消えるはずです。
ところが、返された内側の関数が count を参照しているため、count は消えずに残り続け、呼び出すたびに増えていきます。
先生「関数が終わったら変数は消える」の例外がクロージャなんだ。内側の関数が外側の変数を掴んでいる限り、その変数は生き続ける。この「掴んでいる状態」がクロージャだよ。
前提: レキシカルスコープ — 「どこで定義したか」がすべて
クロージャを支えているのが**レキシカルスコープ(lexical scope)**というルールです。
JavaScriptの関数が参照できる変数は、「どこで呼び出されたか」ではなく「どこで定義されたか」で決まります。const greeting = 'こんにちは';
function greet() {
console.log(greeting); // 定義された場所(グローバル)のgreetingが見える
}
function main() {
const greeting = 'やあ'; // ここにgreetingがあっても…
greet(); // "こんにちは" ← 呼び出し場所のgreetingは関係ない
}
main();greet() は main() の中で呼ばれていますが、表示されるのはグローバルの 'こんにちは' です。関数は定義された時点のスコープを持ち歩くからです。
変数のスコープそのものがあやふやな場合は、変数宣言とスコープの章を先に読み直すのがおすすめです。
スコープチェーン — 変数を探しに行く経路
内側の関数から変数を参照するとき、JavaScriptは内側から外側へ順番に変数を探します。この探索経路をスコープチェーンと呼びます。
const level1 = 'グローバル';
function outer() {
const level2 = 'outerの変数';
function inner() {
const level3 = 'innerの変数';
// inner → outer → グローバル の順に探せる
console.log(level3, level2, level1); // 全部見える
}
inner();
// console.log(level3); // ❌ 外側から内側は見えない
}
outer();
探索は内側から外側への一方通行です。外側の関数から内側の変数は見えません。この「内側からしか触れない」性質が、後で説明するデータの隠蔽につながります。
クロージャの基本形 — 「関数を返す関数」
クロージャが最もわかりやすく現れるのが、最初に見た「関数を返す関数」のパターンです。もう一度、動きを追いながら見てみましょう。
function createGreeter(name) {
// このnameは引数=createGreeterのローカル変数
return function () {
return `こんにちは、${name}さん`;
};
}
const greetTaro = createGreeter('太郎');
const greetHanako = createGreeter('花子');
greetTaro(); // "こんにちは、太郎さん"
greetHanako(); // "こんにちは、花子さん"ポイントは2つあります。
- 返された関数は、
createGreeterの実行が終わった後も引数nameを参照できる - 呼び出しごとに別々のスコープが作られるので、
greetTaroとgreetHanakoはそれぞれ独立したnameを持つ
学習者同じ関数から作ったのに、それぞれ違う値を覚えてるんだ…!関数を「値を抱えたコピー」として量産できるイメージ?
先生いいイメージだね。工場(外側の関数)が、それぞれ固有の材料(変数)を抱えた製品(内側の関数)を出荷していく感じ。これがクロージャの実用パターンの入り口だよ。
データの隠蔽 — プライベート変数パターン
クロージャの代表的な使い道が、外から直接触れない変数を作ることです。
function createWallet(initialBalance) {
let balance = initialBalance; // 外から直接アクセスできない
return {
deposit(amount) {
if (amount <= 0) return balance;
balance += amount;
return balance;
},
withdraw(amount) {
if (amount > balance) {
throw new Error('残高不足です');
}
balance -= amount;
return balance;
},
getBalance() {
return balance;
},
};
}
const wallet = createWallet(1000);
wallet.deposit(500); // 1500
wallet.withdraw(200); // 1300
wallet.balance; // undefined ← 直接は見えない
wallet.balance = 999999; // 書き換えたつもりでも…
wallet.getBalance(); // 1300 ← 本体は守られているbalance に触る方法は、返されたオブジェクトのメソッド経由しかありません。「不正な値を弾く」「必ずチェックを通す」といったルールを、変数への唯一の通り道であるメソッドに集約できるのがこのパターンの価値です。
実務でクロージャが働いている場所
「関数を返す関数なんて自分では書かないよ」と思うかもしれません。でも、クロージャはもっと日常的な場所で働いています。
イベントハンドラ
function setupButton(label) {
const button = document.createElement('button');
button.textContent = label;
button.addEventListener('click', () => {
// このコールバックはlabelを「覚えている」=クロージャ
console.log(`${label} がクリックされました`);
});
document.body.appendChild(button);
}
setupButton('保存');
setupButton('削除');クリックが発生するのは setupButton() の実行がとっくに終わった後です。それでもコールバックが正しい label を表示できるのは、クロージャが変数を保持しているからです。
debounce — 連打を間引く
検索ボックスの入力のたびにAPIを叩かないよう、「入力が止まってから実行する」定番テクニックもクロージャで作られています。
function debounce(fn, delay) {
let timerId; // 前回のタイマーを覚えておく変数
return function (...args) {
clearTimeout(timerId); // 前回の予約をキャンセル
timerId = setTimeout(() => fn(...args), delay);
};
}
const search = debounce((keyword) => {
console.log(`「${keyword}」で検索実行`);
}, 300);
search('J');
search('Ja');
search('Jav'); // 300ms以内の連続呼び出しは間引かれ、最後の1回だけ実行されるtimerId が呼び出しをまたいで生き続けるからこそ、「前回の予約をキャンセルする」が実現できます。
よくあるハマりどころ
ループ内クロージャ — 全部同じ値になる罠
クロージャ最大の古典的トラップです。まずは罠を踏んでみましょう。
for (var i = 0; i < 3; i++) {
setTimeout(() => {
console.log(i); // 3, 3, 3 ← 0, 1, 2 にならない!
}, 100);
}
学習者全部3!? 0, 1, 2 って出てほしいのに…。なんで最後の値だけになっちゃうの?
原因は、2つの事実の組み合わせです。
varは関数スコープなので、ループ全体でiはたった1つしかないsetTimeoutのコールバックが実行されるのはループが終わった後
つまり3つのコールバックは全員が「同じ1つの i」を掴んでおり、実行される頃にはその i が 3 になっているわけです。

解決策はシンプルで、let を使うだけです。
for (let i = 0; i < 3; i++) {
setTimeout(() => {
console.log(i); // 0, 1, 2 ← 期待どおり!
}, 100);
}let はブロックスコープなので、ループの1周ごとに新しい i が作られ、各コールバックはそれぞれ「自分の周の i」を掴みます。「var を使わない」という現代の基本方針(変数宣言とスコープ)は、この罠の予防でもあるのです。
意図せず「その時点の値」を固定してしまう
クロージャが掴むのは「変数そのもの」です。変数から値をコピーした場合は、コピーした瞬間の値で固定されます。
let user = { name: '太郎' };
const name = user.name; // この時点の値をコピー
const showName = () => console.log(name);
user = { name: '花子' }; // userを差し替えても…
showName(); // "太郎" ← コピーした時点の値のまま「常に最新の値を見たい」なら変数そのもの(user.name)を参照し、「その時点の値を固定したい」ならコピーする——どちらの挙動が欲しいのかを意識して書き分けましょう。
メモリへの影響 — 掴んだ変数は解放されない
ちゃんと使うためのポイント
- クロージャ=関数が「定義された場所の変数」を参照し続ける仕組み。一言で説明できるようにしておく
- 変数の探索は内側から外側への一方通行(スコープチェーン)。外から内側は見えない
- 「関数を返す関数」では、呼び出しごとに独立したスコープが作られる
- 外から触られたくない状態は、クロージャで隠蔽してメソッド経由のみにできる
- ループ×非同期の組み合わせでは
varの罠に注意。letなら1周ごとに変数が作られる - イベントハンドラ・コールバック・debounceなど、実務のコールバックはほぼすべてクロージャ
次の章では**非同期処理(コールバック・Promise・async/await)**を扱います。「コールバックが実行されるのはずっと後なのに、なぜ周囲の変数を使えるのか」——その答えがこの章で学んだクロージャです。仕組みを知ったうえで進むと、非同期コードの見え方が変わりますよ。
参考リンク
- MDN — クロージャ — クロージャの公式解説
- MDN — スコープ — スコープの用語定義
