ウェブエンジニア問題集
第3章

クラウドを使う利点 — 高可用性・スケーラビリティ・信頼性の考え方

8
この章の目次開く

「なぜ企業はクラウドを選ぶのか?」——AZ-900の「クラウドの概念」分野では、この答えにあたる クラウドの利点 が体系的に問われます。

高可用性、スケーラビリティ、信頼性…どれも聞き覚えのある言葉ですが、試験では それぞれの正確な意味の区別 が問われます。この章で一つずつ、定義から丁寧に押さえましょう。

学習者学習者

「高可用性」と「信頼性」と「スケーラビリティ」…正直、全部「なんか安定してそう」くらいの理解で区別できてないかも…

先生先生

その状態のまま試験を受けると選択肢で迷います。コツは 「それぞれ何の問題を解決する言葉か」 で覚えること。止まらない=可用性、増減できる=スケーラビリティ、壊れても戻れる=信頼性です。順に見ていきましょう。


高可用性 — 「止まらない」を数字で約束する

高可用性(High Availability)とは、システムが停止せずに稼働し続けられる性質 です。

どんなハードウェアもいつかは壊れます。高可用性の発想は「壊れない部品を作る」ではなく、「部品が壊れてもシステム全体は止まらない構成にする」 ことです。複数の仮想マシンを別々のデータセンターに分散配置するのが典型例です(具体的な手段である可用性ゾーンは第5章で扱います)。

SLA — 稼働率の約束

クラウド事業者は、サービスごとに SLA (Service Level Agreement: サービスレベル契約) で稼働率を約束しています。

稼働率年間の停止許容時間
99%約3.7日
99.9%約8.8時間
99.99%約53分
99.999%約5分

「9が1つ増えると停止時間が約10分の1になる」という関係です。Azureでは、SLAを下回った場合に利用料金の一部が返金されます。


スケーラビリティ — 「増やせる・減らせる」

ステップアップする男性のイラスト

スケーラビリティ(Scalability)とは、需要に合わせてリソースを増減できる性質 です。増やし方には2方向あります。

  • 垂直スケーリング — サーバー1台を「より強いマシン」に変える。構成変更が簡単だが、1台の性能には上限がある
  • 水平スケーリング — 同じ構成のサーバーの台数を変える。上限が事実上なく、クラウドの自動スケールと相性が良い

弾力性 — スケーラビリティの自動化

弾力性(Elasticity)は、需要の変化に応じてリソースが自動で増減する性質 です。

ECサイトのセール時間帯だけサーバーを10台に増やし、深夜は2台に戻す——これを人手ではなく自動で行うのが弾力性です。従量課金(第2章)と組み合わさることで、「ピークに備えた過剰な設備を持たなくてよい」 というクラウド最大の経済的メリットが生まれます。

学習者学習者

スケーラビリティと弾力性って同じ意味じゃないの?

先生先生

近い概念ですが、スケーラビリティは「増減できる能力」、弾力性は「需要に応じて自動で増減すること」 です。「手動でもできる」がスケーラビリティ、「勝手にやってくれる」まで含むのが弾力性、と区別してください。試験でも言い分けられています。


信頼性と予測可能性

信頼性 — 「壊れても回復できる」

信頼性(Reliability)とは、障害が起きてもシステムが回復できる性質 です。

高可用性が「止めない」ことに焦点を当てるのに対し、信頼性はより広く、障害からの回復力(レジリエンス) を含みます。リージョン全体が災害に見舞われても、別リージョンに複製したデータから復旧できる——クラウドはこうした 地理的な分散 を、自前のデータセンターよりはるかに低コストで実現します。

予測可能性 — 「見通しが立つ」

予測可能性(Predictability) には2つの側面があります。

  • パフォーマンスの予測可能性 — 自動スケールや負荷分散により、アクセスが増えても応答性能を維持できる
  • コストの予測可能性 — 使用量の分析ツール(料金計算ツールやコスト管理。第11章)で、支出を事前に見積もり、追跡できる

「クラウドは使った分だけ課金だから、いくらかかるか読めないのでは?」という不安への答えが、この予測可能性です。


セキュリティ・ガバナンス・管理の容易さ

残る3つの利点は、運用面のメリットです。

セキュリティとガバナンスの利点

  • テンプレートやポリシー(第12章)で、組織のルールを全リソースに強制 できる
  • OSやミドルウェアの セキュリティパッチを事業者が自動適用 してくれる(PaaSの場合)
  • DDoS対策など、個社では持ちにくい防御インフラを標準で利用できる

管理の容易さ

クラウドの管理には2つの意味があり、試験でも区別されます。

  • クラウドの管理 (Management of the cloud) — リソース自体の管理。自動スケール、テンプレートによるデプロイ、自動バックアップなど
  • クラウドでの管理 (Management in the cloud) — 管理する手段。Webポータル、CLI、API、PowerShellなど、どこからでも管理できること

利点マップ — どの言葉が何の問題を解決するか

この章の全体像を一枚にまとめます。試験の選択肢で迷ったら、この対応で判断してください。

解決したい問題対応する利点キーワード
サービスを止めたくない高可用性SLA、稼働率、冗長構成
アクセス増減に対応したいスケーラビリティ垂直/水平スケーリング
増減を自動化したい弾力性自動スケール、需要への追従
障害から回復したい信頼性レジリエンス、地理的分散
性能とコストの見通しが欲しい予測可能性自動スケール、コスト分析
ルールを組織全体に効かせたいセキュリティ/ガバナンスポリシー、自動パッチ
運用の手間を減らしたい管理の容易さポータル、CLI、API、自動化

まとめ

  • 高可用性 = 止まらない性質。SLA は稼働率の約束で、9が1つ増えると停止許容時間は約10分の1
  • スケーラビリティ は増減できる能力(垂直=性能アップ、水平=台数増)、弾力性 はその自動化
  • 信頼性 は障害からの回復力で、地理的分散がクラウドの強み
  • 予測可能性 はパフォーマンスとコストの両面で「見通しが立つ」こと
  • 管理の容易さには クラウドの管理(何を)クラウドでの管理(どうやって) の2側面がある

次の章では、クラウドの概念の総仕上げとして、最頻出テーマ IaaS・PaaS・SaaSの違い を整理します。